読み物
妻に言われたことがある。「私とチャンポン、どっちが大事なの?」と。
こんな問いを配偶者から受けたのは、この世界でおそらく私だけだろう。
それがなんとも誇らしく、そして少々切ない。青春時代から、チャンポンは私と共にあった。
部活動終わりの栄養補給も、仕事仲間と残業した時のチルタイムも、筋トレで痛めつけた筋肉へのご褒美も、そしてノスタルジックな家庭の味も。
企画に忖度する訳ではないが、私にとっては、あらゆる浪漫が詰まっている。そんな料理である。
私はちゃんぽんを、「マインドフルめし」だと漠然と思っていた。そんな時にこの協会サイトの記事の「マインドフルめしのススメ」を拝読し、「これってチャンポンのことじゃん!」と声に出してしまった。
マインドフルネス、つまり「いまここ」に意識を向けること。
チャンポンの前に座ると、それが自然と起きる。
野菜、麺、肉——三者が丼の中で見事なバランスをとり、過不足なく揃っている。
栄養のことを小賢しく考える必要もなければ、何かを我慢する理由もない。ただひたすら、目の前の一杯に没頭できる。それがチャンポンのマインドフルめしとしての本質だと、私は思っている。
着丼(どんぶり系の料理が届く際の専門用語)。
もう、ここからは言葉はいらない。
まずはスープをひとくち。鶏ガラ系か? はたまた豚骨系? その奥の隠し出汁は? 作り手のこだわりを読み解く。
続いて野菜部分。「野菜から先に食べる」などしゃらくさい。上から食べていけば勝手に辻褄は会うのだ。たまにカマボコや小エビ、肉が不意打ちのパンチを食らわせる。そのパンチを食らいながら、無心で具材を食らい続ける。
そして麺。実はご当地性がある。長崎の製麺所の麺は特に。夢中ですする。軽く汗をぬぐう。そして、すべての旨味を宿したスープを飲み干す。そこでのどが渇いていることに気づく。お冷の爽快感がまた堪らない。夜ならビールも良いだろう。
身も心も、栄養バランスも満たされている。外に出る。風が火照った頬に心地よい。
そんな私のマインドフル体験だ。

「チャンポン」と聞いて、あなたはどんな一杯を思い浮かべるだろう。
長崎港、長崎中華街。それともチャンポンに詳しい方なら小浜温泉の小浜ちゃんぽん。湯けむりの向こうに立ち上る白い湯気。
けれど実は、チャンポンは、もっと自由で、もっと旅をしてきた料理でもある。
鳥取で、あんかけちゃんぽんが食べられるようになって、どれくらいの時間が流れたのだろうか。正確な年号は分からない。けれど勝手な想像はできる。
長崎で生まれたチャンポンは、昭和の時代、九州から関西へ、そして雪深い山陰へと、人の移動とともに伝わっていった。
働くために土地を離れた人たちの記憶と一緒に、「温かいもの」「腹にたまるもの」「どこか懐かしいもの」として。
九州より寒い関西、そして山陰地方。
そこで求められた条件は、いたってシンプルだった。
冷めないこと。
そして、ちゃんと美味しいこと。
その答えが、「あんかけ」だったのではないだろうか。
とろみをまとったスープは、最後まで熱を逃がさない。
白菜や海産物、地元の野菜たちを包み込み、その土地の食文化ごと飲み込んで、チャンポンはちゃんぽんへと姿を変えていった。

これは、他の料理にはなかなか真似できない特性だ。
決まった型を守るのではなく、
土地に合わせて、土地と混ざり合い、土地の味になる。
そうして生まれた山陰のあんかけちゃんぽんは、いまや“変化形”ではなく、立派な“ご当地の顔”になっている。
熱々のとろみを身にまとい、その土地の風土を語りながら、黙々と、しかし確かな存在感で、丼の中に佇む。
チャンポンは、混ぜる料理だ。
具材だけじゃない。
人も、文化も、気候も、歴史も、ぜんぶ混ざって、その場所の「いま」を映し出す。
それを味わうということは、ただ食べることではなく、
その土地に、少しだけ身を委ねることなのかもしれない。
――あれもチャンポン。
――これも、ちゃんぽん。

今年は、9月の5日(土)、6日(日)に、チャンポンの変遷の最果て「網走ちゃんぽん」の聖地、網走市四条通にて、全国ご当地ちゃんぽんの祭典「ワールド・ちゃんぽん・クラシック(通称WCC)」が開催される。ぜひ、いまの日本のチャンポン文化の最先端を、味わっていただきたい。
網走ちゃんぽん研究会
http://www.abashiri-champong.jp/welcome.html

林田真明(ちゃんぽん番長)
市役所職員時代から、「ちゃんぽん番長」として名を馳せ、先進的な地域活性化事例を多数行う。
退職後、むしろ現役時代よりもアクティブに、様々な地域おこしを手掛け、ふるさと雲仙市を拠点に、全国に飛び回る。
現在、小浜ちゃんぽん愛好会だけではなく、全国ご当地ちゃんぽん連絡協議会の代表を務め、多数のテレビ出演や、海外を含む講演活動、大手企業の商品開発アドバイス業務など、日本のちゃんぽん界をけん引している。
座右の銘は「石の上でも3杯」
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