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お笑いコンビ「ドンデコルテ」の渡辺銀次さんが出演するマクドナルドのCM動画が話題になっている。スーツ姿の渡辺さんがダブルチーズバーガーをほおばり、『M-1グランプリ』で見せた演説風の口調で視聴者に語り掛け、ロックバンド「怒髪天」の楽曲を熱唱する。
4月8日にSNS上で公開されると、「最高すぎる」「泣ける」「自分にぶっ刺さった」といった絶賛の言葉と共に、瞬く間に拡散された。4月15日時点で、Xのいいね数は16万、インプレッション数は3000万を超えており、9日に公開されたYoutubeの再生数も55万回を突破している。
渡辺銀次というお笑い芸人を知らなくてもおもしろく、知っているとなおさらおもしろい仕掛が全編に施されているが、なかでも印象に残るのは、あの一言だろう。
「豊かさとは持っているものの多さではない。無駄に使った時間の多さです」
この言葉が多くの人に刺さったのは、いろんな意味で「銀次さんが言ったから」という面もあろう。だが、それだけではない。私たちはもうずいぶん前から、役に立つことばかりで埋まった毎日に、うっすら疲れていたのだと思う。
仕事はもちろん、趣味や休息にも意味や成果が求められ、楽しむことにさえ、説明が必要になっている。
今回、日本ロマンチスト協会が35〜55歳の男女300人に実施したアンケートにも、その窮屈さは表れている。

「普段、役に立たないけれど自分が好きな時間を十分に持てている」と答えた人はわずか15%。「まあまあ持てている」が46.3%で最多だが、裏を返せば多くの人が”足りなくはないが、満ち足りてもいない”状態にある。「あまり持てていない」「全く持てていない」の合計は38.6%で、約4割が不足感を抱えていた。

さらに、「最近の社会は、趣味や休息に対しても“意味”や“成果”を求めすぎている」と感じる人の割合は、59.3%にのぼった。約6割の人が、休むことや好きなことにまで、どこか成果主義の圧力を感じている。

一方で、「何もしない時間や、ぼんやり過ごす時間に罪悪感を覚えることがありますか」という問いへの答えは分かれた。「頻繁にある」と「ときどきある」の合計は37.4%だったが、「あまりない」は34%、「まったくない」は28.7%だった。つまり、6割の人は平気だが、4割近くの人は、ぼんやりした時間にどこか引っかかりを覚えている。
この「少しだけ休みにくい感じ」が、いまの時代の輪郭なのかもしれない。好きなことに没頭したあとでさえ、「この時間は正しかったのか」と自己点検してしまう。そういう繊細な圧力が、日常のあちこちに入り込んでいる。
その空気の中で、「無駄に使った時間」を豊かさと言い切るこのCMは、私たちの心に、肩の力を抜かせる言葉として響いたのではないだろうか。
私たちは普段、豊かさを収入、経験値、友人の多さなど、「持っているもの」で測りがちだ。だが、このCMは別の物差しを提示した。何を持っているかではなく、何に時間を使えたか。そしてそれが、有意義な時間ではなく、無駄に使った時間だというところに、この言葉の本気がある。

もちろん、人生は無駄だけで成り立つわけではない。締切のない社会は成り立たないし、片づけなければならないことは山ほどある。けれど、人を支えるのは正しく配分された時間だけではない。ぼんやりした午後、意味のない寄り道、誰にも説明しなくていい偏愛。そういう時間があるから、人生はただの管理表にならずにすむ。
このCMが歓迎されたのは、「怠けてもいい」と言ったからではない。役に立つことだけでは、人は少し乾いてしまう。そのことを、多くの人がもう知っていたからだろう。

豊かさとは、何を持っているかだけでなく、何に時間を溶かしてきたかでも決まる。少し無駄だった時間も、人生の中では案外、静かに光っている。
無駄を認められる大人こそ、きっと最高だ。だから、銀次さんに続いて叫ぼう。
「オトナはサイコー!」
記事:研究員 佐々木 康弘
【調査概要】
・調査内容 :ライフスタイルに関するアンケート
・調査対象 :全国/男女/35歳以上55歳以下
・調査期間 :2026年4月14日
・調査人数 :300人
・調査機関 :Freeasy
※本調査結果をご利用いただく際は、「日本ロマンチスト協会調べ」と明記ください。
【主な参考資料・出典】 2026年4月15日閲覧
※本記事は上記資料に加え、関連メディアの公開情報を対象としたデスクリサーチ(編集者調べ)に基づき作成しています。
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