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#怪談界隈│なぜ今また怪談なのか――「令和の怪談ブーム」の正体

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最近、怪談をよく見かける。

NHK朝ドラでは、日本の怪談を海外に紹介した小泉八雲とその妻セツをモデルにした「ばけばけ」が間もなく最終回を迎える。SNSを開くと、誰かがどこかで開く怪談ライブの告知が流れてくる。YouTubeでは、怪談を専門とするチャンネルが人気を集めている。

派手なブームというより、しばらく忘れ去られていた「怪談」が、いつの間にか生活の中に戻ってきたような感覚がある。

東京を拠点に活動する怪談師・住倉カオスさんも、その変化を実感しているという。

「やっぱりコロナ以降ですね。外出自粛で、YouTubeを中心にして流行った。それが定着して、コロナが収束してからも怪談を聞くイベントのお客さんが増えていると感じます」

カオスさんは怪談ライブの語り手であると同時に、怪談番組の構成やイベント運営にも関わっている。

「時期的なものもありますが、平均して月に3~4回ぐらいでしょうか」

怪談は夏の風物詩というより、さまざまなメディアでコンスタントに回り続ける文化になっている。

そもそも、人はなぜ怖い体験を求めるのか

怪談を聞く。ホラー映画を見る。お化け屋敷に行く。

恐怖は本来避けたい感情のはずなのに、人はなぜ自分からそれを求めるのだろうか。

心理学では、安全が確保された状況で体験する恐怖は、娯楽として快感に変わると説明されることがある。危険がないと分かっているからこそ、人は安心して怖がることができる。

怪談は、この構造と非常に相性がいい。怪談を聞いているとき、聞き手の身体は安全な場所にある。

暗い山道を歩いているわけでもなければ、幽霊に追いかけられる危険があるわけでもない。椅子に座ったまま、あるいはスマートフォンの画面を眺めながら、言葉だけで恐怖を体験しているにすぎない。

つまり怪談は、物理的な危険を伴わない恐怖である。安全な場所にいながら、背筋を冷やすことができる。しかも怪談は、映像とは少し違う。

カオスさんは言う。

「怪談って、自分で想像して自分を怖がらせるんですよね。ホラー映画より、結構手間のかかる娯楽だと思うんです」

怪談は、見せられる恐怖ではない。人間ならではの「想像力を使って成立する娯楽」なのだと言える。

怪談の楽しみ方は変わった

今回の怪談ブームの入口は、コロナ禍だった。在宅時間が増え、多くの人がネットで怪談を聞くようになり、それが定着した。

「怪談って語り口が穏やかなので、最近は寝る前に聞く人もいますね。昔は落語を聞いて寝る人がいましたけど、今は怪談が選択肢に入っているようです」

もうひとつ、大きな変化が起きた。

怪談の注目ポイントが「話」から「人」へ移ったのだ。以前は「いろんな話を聞きたい」「珍しい怪談を知りたい」という文化が主流だった。だが、今は「誰が語るか」が重要になった。

「お気に入りの語り口の人を見つけて、その人の怪談ライブに行く、みたいな。“推しの怪談師を応援する”という感覚で聞きに来る人が増えていますね」

この変化は怪談ライブの客層にも現れている。

「コロナ以前は30〜60代の男性中心だったんですが、今は女性中心ですね。20代から40代ぐらいの方」

怪談ライブでは、観客同士の交流も生まれている。

「一人で来た女性が、会場でよく会うお客さん同士で友達になるパターンも多いですね」

怪談はどうやって人を怖がらせるのか

怪談の怖さは、どこで生まれるのだろうか。カオスさんはその答えを「間と、語り口と、意外性」だと分析している。

怪談では、幽霊が出る前にあえて間を作る。

「そこに道が続いてて、ポツンポツンと街灯があったんですけど……っていうところで間を取ると、お客さんがグイッと引き込まれる」

その後に予想外の展開が来ると、聞き手がわっと驚くという。

来るぞ来るぞ、と分かっている怖さも怖いが、意外性も怖さを生み出す。たとえば、ロッカーや机の引き出しから、日常の空間にあり得ない“何か”が現れる。

「その瞬間、お客さんは『そんなことがもし自分の身に起こったら、本当にイヤだなあ』とか『気持ち悪いなあ』と思う。だからこそ、話に引き込まれていきます」

怪談の怖さに重要な要素がもうひとつある。それは「複数人で聞くこと」である。

もちろん、怪談は一人で聞いても怖い。部屋を暗くし、スマートフォンで怪談を聞く。そういう体験にも十分な怖さがある。

しかしカオスさんは、怪談は複数人で聞くほうが怖いと指摘する。

「やっぱり『気』ってありますよね。その場をみんなで共有していると、無意識のうちに怖さが伝播し、増幅されていきます」

怪談ライブでは、語り手の声のトーン、空気の震え、周囲の観客が息を飲む気配といった細かな反応が空間を伝う。その空気が、観客同士の恐怖をつなげていく。

怪談には古くから「百物語」という形式がある。集まり合って100の怪談を語ると怪異が起こる、という言い伝えだ。そこには恐怖が集団の中で高まっていく感覚が表れている。

「みんなで同じ恐怖を共有することは、怖さの増幅装置になっていると思います」

怪談の怖さは、語りの技術だけで生まれるわけではない。

想像力と、共有された空間。その二つが重なったとき、恐怖は一人の内側だけでなく、場全体へと広がっていくのだ。

怪談はなぜ、何度も戻ってくるのか

もっとも、日本で怪談や超常現象が注目されるのは今回が初めてではない。

1970年代には「口裂け女」が社会現象となり、その後も「トイレの花子さん」や「学校の怪談」が子どもたちの間で語られた。テレビでは心霊番組やUFO番組が人気を集め、科学では説明できない話題が何度も波のように押し寄せてきた。

怪談はいつの時代も、社会の空気に合わせて、強くなったり、静かになったりしながら、何度も戻ってきた文化なのだ。

では、なぜ今また怪談なのか。

カオスさんはまず、価値観の反動があると見る。

「即物的な価値観からの揺り戻しというか、やっぱり人間性を取り戻したいんじゃないかなと思います」

その揺り戻しは、怪談という文化の性質そのものに関わっていると続ける。

「怪談の持ついろいろな要素は、言ってみれば合理性への反発なんだと思います」

合理性の時代に、人は何でも理解できるような感覚を持ちやすい。だが、その感覚の外側にあるもの=理解できないものを感じたいという欲求もまた、人の中に残り続けている。

「合理主義の世界では、人間が自然すら制御できてしまう。でも、人間を超越したもの、理解できないものがやっぱり世の中にあると思うことで、逆に安心する部分があるのではないでしょうか」

怪談は、恐怖を楽しむ娯楽でありながら、世界がまだ完全には説明されていないことを静かに思い出させる文化でもある。だからこそ、今日もどこかで誰かが怪談を語り、誰かが耳を傾けている。

記事:研究員 佐々木 康弘

【主な参考資料・出典】 2026年3月5日閲覧

※本記事は上記資料に加え、関連メディアの公開情報を対象としたデスクリサーチ(編集者調べ)に基づき作成しています。

PROFILE

住倉カオス
フォトグラファー・超常現象研究家

出版社のカメラマンとして数々の事件現場や心霊事件取材に携わる。
独立後、その経験から多くの心霊DVD(呪霊映像シリーズ、黒呪霊シリーズなど)をプロデュース。
その怪談は、実地の心霊取材に基づく【ドキュメンタリー怪談】とも呼ぶべき独特のスタイルである。
著書に「百万人の恐い話」「百万人の恐い話 呪霊物件」など

Youtubeチャンネル【住倉カオスの百万人の恐い話】。
『竹書房presents 怪談最恐戦』オーガナイザー
AmazonPrime Channel 恐怖『住倉カオスの怪談★語ルシス』
などの企画、構成。
『実話怪談倶楽部』など出演多数。

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