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2025年6月6日の公開から2026年2月現在まで、異例のロングラン上映が続く歌舞伎を題材にした映画「国宝」。興行収入は198.8億円に達し、これまで歌舞伎を見たことのないファンを劇場に惹きつけている。
松竹によると、7月以降に歌舞伎座に来場した新規客は約2万人に上り、2025年7月から10月の4カ月間においては新規客を含め、前年同期比1.3倍の来場者数を記録した。
映画の鍵を握る古典の代表曲である常磐津節(ときわづぶし)の「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」、通称「関の扉(せきのと)」は今月の歌舞伎座公演の演目の一つとなっており、売れ行きも好調だ。
そこで、日本ロマンチスト協会では、歌舞伎に関する緊急アンケートを全国の20歳から69歳の女性を対象に実施。時節的な質問として、バレンタインに関する質問も織り交ぜてみた。
私は伝統芸能を嗜んでおり、「国宝」は1度鑑賞し、原作を計3回読んだ。どのくらい邦楽が好きかというと江戸時代の唄の歌詞が書かれた稽古本を買うほどで、字が難しすぎて読めず当時の空気を感じるだけのものもある(苦笑)。
実は我が家には話題の「関の扉」の稽古本がある。そんな伝統芸能マニアな私が読み解いた「国宝」ブームを、経済的な視点も織り交ぜてお届けしたい。
「国宝」がブームになったことで、以前では考えられない事態が起こっている。映画の配給会社である東宝と歌舞伎の興行を取り仕切る松竹は、創業時代から役者の引き抜きなど、さまざまな因縁があり長年のライバルだ。
象徴的な出来事としては、小林一三率いる東宝が松竹の看板スターであった林長二郎(後の長谷川一夫)を引き抜いた際、松竹が移籍を妨害し、芸名の使用を禁じたことにさかのぼる。こうした囲い込みの手法は、現在も芸能界の独禁法違反に関する議論で取り沙汰されることがあるが、この事件こそがその原点と言われる。
そんな両社が2025年の大みそかに歌舞伎座で共催の上映会を実施し、キャストの吉沢亮、横浜流星、李相日監督らが登壇し、全国に同時生中継された。映画に出演し、人間国宝・7代目尾上菊五郎を父に持つ寺島しのぶの「東宝の映画が松竹の管轄の場所で上映できるという、この奇跡を初めて体験したことは一生忘れないと思います」というコメントは、この歴史を象徴する。まさに、東宝と松竹が90年あまり経て、共に『閾を跨いだ』瞬間だったと言えよう。
伝統と革新の融合が生んだV字回復
松竹はコロナ禍の打撃により、歌舞伎公演の中止や再開したものの団体客が戻らず苦境に立たされていた。2025年2月期まで5年連続で赤字が続いていたが、今期は市川染五郎や市川團子(だんこ)など、次世代を担う若手の台頭により回復基調へと転じた。
さらに、これまで公演2カ月前に発表していた演目を、2025年1月からは主要演目に限り早期に発表。ファンが劇場へ足を運びやすい環境を戦略的に構築した。
そんな中、「国宝」の空前絶後のヒットが強力な追い風になり、祖業である演劇事業が6年ぶりに営業黒字に転じる見込みだ。同社が1月14日に発表した2026年2月期の連結最終損益は50億円の黒字(前期は6億6400万円の赤字)と、当初予想をさらに10億円上回る鮮やかなV字回復を遂げようとしている。
「国宝」の興行収入は197億6000万円に達し、アニメ・洋画を含む歴代興行収入ランキングで邦画実写作品として史上初の歴代トップ10入りを果たした。映画配給元の東宝は、「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来」のヒットもあり、2026年2月期の純利益は最高益の見込み。今期の興行収入は1社単体で1605億円となり、全体の58%を占める。
歌舞伎は全国での巡業公演があるものの地域が限られており、以前から「限られた層だけが楽しむもの」というイメージが根強くあった。実際、内閣府が平成15年(2003)に実施した「文化に関する世論調査」では、過去1年間に歌舞伎を見た人はわずか5.3%にとどまっている。
しかし今回、当協会が改めてこの項目についてたずねたところ、23.67%と予想を上回る高い高い値が記録された。「国宝」との相関は軽微だと思うが、明るい兆しである。

これほどまでの社会現象を巻き起こしていることから、当初は「3割程度は映画『国宝』を鑑賞しているのでは」と予想していた。しかし意外なことに、当協会の調査では15%と、歌舞伎を見たことがある人(23.67%)を下回る結果となった。
これは「LINEリサーチ」が2025年12月に実施した調査結果(全体で「観た」が16.4%)とほぼ合致している。世間の認知は極めて高いものの、実際に鑑賞した人がこの値にとどまっているのは、シネコンが普及している地域とそうでない地域の格差が要因の1つではないかと考察される。まだまだ、伸びしろがあると言えるだろう。

ロマンチストの権化として君臨してきた当協会としては、「チョコをあげたい歌舞伎役者」の動向も気になるところ。
結果は、テレビでもお馴染みの尾上右近、市川染五郎、中村隼人、尾上松也の各氏が上位にランクイン!
彼らを目当てに劇場に足を運ぶファンも多く、歌舞伎座のブロマイド(舞台写真)の売り上げを牽引している方々。テレビなどで、等身大の「推し」を見つけているようだ。
寄せられた投票者コメント(抜粋)からも、その多彩な魅力が伺える。
・尾上右近:ドラマやバラエティ番組でよく見かけ、親しみやすく楽しい人だから / 多才だから
・市川染五郎:頑張っていると思う / とにかくかっこいい
・中村隼人:NHK「大富豪同心」の主演がすごく似合っていて、気に入っている歌舞伎役者さん / かっこよい
・尾上松也:バラエティ番組で見せる素顔が面白い / かっこいい

大御所の方々など、ダンディで個性豊かな役者さんも多数。自分なりの「推し」を見つけて劇場に行くのも楽しみのひとつだ。過去の上演作品が映画(シネマ歌舞伎)で公開されたり、NHKなどでも放送され、劇場外での接点も増えている。歌舞伎座などでは、「一幕見席(ひとまくみせき)という一つの演目だけを気軽に安価で楽しむ方法もあるので、オススメしたい。
日本経済にも寄与している映画「国宝」。歌舞伎界にとっては、今後この熱狂をどう持続させていくのかが最も気になるところだ。古典は足を踏み入れにくいと思われがちだが、若手役者たちの台頭も著しく、伝統が新たな形へ進化していく様は今後も非常に楽しみである。
記事:研究員 佐々木 倫子
【調査概要】
・調査内容 :歌舞伎認知度調査
・調査対象 :全国/女性/20歳以上69歳以下
・調査期間 :2026年2月4日
・調査人数 :300人
・調査機関 :Freeasy
※本調査結果をご利用いただく際は、「日本ロマンチスト協会調べ」と明記ください。
【主な参考資料・出典】 2026年2月10日閲覧
※本記事は上記資料に加え、関連メディアの公開情報を対象としたデスクリサーチ(編集者調べ)に基づき作成しています。
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